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補助人工心臓植え込みから丸3年半にして胸からワイヤーが出てきた話

スマホを弄る女性

 外来前夜の8月12日20時より始まった多人数ビデオチャット「井戸バド会議」は日付が変わっても話が尽きる事はなかった。まじめな話や馬鹿話が弾む中、首の下あたりで痛みとは異なる違和感を覚えた私はコッソリと手鏡で縫合跡を確認した。第一肋骨辺りの縫合跡が少し腫れて赤黒いことに気付き、画面越しに「なんか胸の傷が腫れてきた、、、」「どれどれ?」というように縫合跡を映し出し会話をしていた。「ワイヤーかなぁ…」

全てはここから始まった。

心臓移植待機者を打ち取ろうとする胸のワイヤー

 1ストライクであれば打ち取りにくい内角高めのような球は見送りたいところだ。補助人工心臓「エヴァハート」の植え込み手術を終え、自宅での移植待機生活へ移行してからも胸骨付近の痛みや違和感があり、主治医と相談していた時期があった。

しかし、その痛みや違和感も月日の慣れで一年も経たずに気にならなくなっていた。

 

 三年を超えた辺りから胸骨の最下部辺りで違和感や痛みを感じる事が増えてきたので、フォローの検査をしながら経過を見ていた。(この検査は違う意味でやってよかった‼)

移植待機者というバッターボックスに立った私は内角高めの打ちにくい球を投げ込まれた状況だったが、ストライクカウントが無いので見送っていたようだ。しかし、いつの間にか2ストライクに追い詰められていたようで、内角高めのようなストライクゾーンギリギリの球でもバットを振らざるを得ない状況に陥ってきた。

次の球は「ボール」かもしれないが、「ストライク」かも知れない。ストライクで見送れば移植待機という打席から出されてしまう。そうなったら本当に「アウト」だ。一巡して打席へ戻れればよいが、それが9回裏だったら絶望的だ、、、

ワイヤーが出てきた?腫れを確認し、今後の方針が決まった

 井戸バド会議より数時間後に通常の外来受診へ出向き、ルーチンで採血やレントゲン、心電図などを受けた。腫れの赤黒さは増していたがCRP値も普段と大差はなかった。

バッターは構えていたが「監督」はタイムを宣言し、次の一球である「腫れ」を見極めた。次は「ボール」球のようだが、見送っても2ストライクという状況は変わらない。監督からは「入退院予約センター」「ワイヤー抜去」「手術」という指示が出さた。

私は最短の4日後に入院予約を済ませて打席へ戻ったのだが、監督からは「迷わずに思いっきり振れ‼︎」という指示も受けていた。それは腫れが破れたり、発熱など症状がでたら「即報告」「即時入院」「即手術」という内容だ。

 

  VAD装着という身体状況もあるが、ワイヤー部分で感染すると非常にまずい状況へ繋がる危険性があるらしい。感染はワイヤーなどを伝わり素早く全身へ菌を撒き散らす「敗血症」へ繋がる可能性がある。入院・手術のどちらも嫌ではあるが監督の指示は絶対だ。

指示に背いたら鉄拳制裁‼︎ではなく、自ら命を危険に晒すようなものだ。

 

 そもそも何で胸からワイヤーが出てくるのか?新手のデトックス効果か?それとも急に手から砂を出すサイババのような能力が備わったのか?胸からワイヤーを自由自在に出せす動画を公開したらSNSを席巻し、(く○らない)ワイドショーで扱わて一躍「時の人」になれるかもしれないが、私にとっては迷惑この上ない。

話が脱線しすぎて迷子になりそうなので本題へ戻ろう。

胸骨正中切開手術後は胸骨をワイヤーで結ぶ

 補助人工心臓には機種ごとに差はあれど「対外式」と「植え込み式」に大別することが出来る。どちらも心臓へ繋ぐ場合には心臓の動きを止めて切開し、血液循環をアシストする補助人工心臓のポンプと繋ぐ。(実際には補助人工心臓のポンプを繋げる前に血液循環やガス交換、体温調節を行う「人工心肺装置」へ繋げられる)

 

 補助人工心臓の手術に限った話ではないが「胸を開く」のだ。心臓はある意味で深い堀と高く積み上げらた石垣に守られた難攻不落の大阪城のようだ。心臓は肋骨や脊椎骨といった石垣に守られており、徳川も攻め落とせなかった。しかし、徳川は和睦で大阪城を開かせたようだが、心臓は和睦では開く事ができない。もちろんアリババと40人の盗賊のように「開けゴマ」と唱えても自動ドアのごとく肋骨が開くはずもない。

中心にある胸骨を電動ノコギリを使って縦にぶった斬るのだ。そして切った隙間?から開胸器を使って広げるらしい。もちろん実際のオペを直接目にしたことはないが、車のジャッキーを突っ込んでギリギリと広げるような感じだろうか?それとも干したイカが丸まらないように串を打っている感じだろうか?どちらでもよいが、術後にひどく背中が痛かったことは鮮明に覚えている。

 

 手術が終わったら胸を閉じなければならない。玄関と同様に開いたら閉じる、留守にするなら鍵をかける、小さなお子様でも分かることだ。鍵を植木鉢の下へ隠そうとする姿も晒してはならない。どこで泥棒という名の「菌」が見ているかわかったものではない。泥棒がいない状況でトントンし、ガチャっと乱暴に鍵を回してドアを開くのだろう。胸は指紋認証がなければオートロックや「何とかクラスター」もないのだから仕方がない。

またまた当てにならないカーナビに案内されるがごとく話が逸れてしまった、、、

 

 胸骨は数本のワイヤーを使って繫ぎとめる。ワイヤーはステンレス鋼やらチタン製らしいが、私に入っていたワイヤーはチタン製らしい。ちなみに術後にオペ室を出たところで小袋に入ったワイヤーを見せていただいたが、想像していたものより太いく感じた。

事前に「抜去したワイヤーがほしいぃ!!ほしい~~!!」とほんの少し駄々をこねてみたのだが、法律上の理由も交えても丁寧にお断りされたのは、私とあなただけの秘密だ。

 

 あまりにも経過が順調すぎて頭がおかしくなってしまったようだが、決して暇なわけではない。私は日夜VAD仲間とのおしゃべりで忙しのだ。

 

本当に本題へ戻ろう、、、

 

 

本来、胸骨をとめたワイヤーを取る積極的な理由はないそうです。しかし、今回のように悪さをしたら別です。

胸部のレントゲン写真
これは私ではない
開胸のイメージ
開胸のイメージ
胸骨のワイヤー
ワイヤーのイメージ

「腫れ」が破けた、、、

 入院予定日前日の夕方にCT撮影の追加予約が入った。当日は昼前にシャワーを浴びていたのが、胸の傷が破けて出血していることを確認した。もちろん新人営業のアポ電話をも上回る速さで「監督」へ連絡した。

折り返しの電話では入院を伝えられ、急いでおもちゃを… VAD関連機器を車へ積み込み病院へ向かった。幸いにも傷から膿が出ることもなく、当初想定していたような状況ではなかった。1日早めの入院となってしまったが、こればかりは仕方がない。翌日に局所麻酔下で胸骨上部のワイヤーを抜去するということが決定した。

 

 手術当日は色々とバタバタしたのだが、無事に行われた。オペ室へ歩いていく姿を自撮りしようと思っていたのだが、本当にバタバタしており数秒ほどしか使える映像が残らなかった。オペ室前で看護師へスマホを預けて撮影は終了。意外かもしれないが初めて実際のオペ室を目にした。まさにドクターXやコードブルーの世界であり、私は移植待機生活で疲れ濁り衰えはじめた目を少年のようにキラキラと輝かせながら神々しい医療機器の数々を眺めていた。手術の恐怖感は消え去り、ワクワクした気持ちであった。

はっきり言ってお上りさんだ。

局所麻酔下での胸骨ワイヤー抜去はどんな痛み?

 結局何本のワイヤーを取られたのか?最終的には胸を切って状態を見てから決めるということだったが、2本か3本のどちらかだったことは理解している。(別の機会で確認してみます)

術前に気になっていたのがオペ中の痛みだ。今回は全身麻酔ではなく局所麻酔下での手術だったが、同じく局所麻酔下でワイヤー抜去を経験されていた方よりさんざん脅された通りの痛みだった。

 

 このくだらない記事を読んでいる方のなかには局所麻酔を経験された方も多いであろうから、局所麻酔の痛みについての説明は省くとしよう。オペ室へ入った私はまな板へ上がり、いろいろな人がそれぞれの役割を果たしていた。私もコンプレッセンという濃い水色の布で覆い始められる。いよいよこれから捌かれるのだ。

音楽は何にしますか?一流ホテルのVIPのようにバックミュージックのリクエストを聞かれた。どうやら有線が流せるようで、ヤングな私は「70年代のロック」を指定した。しかし、もっと具体的に注文すべきだった。

私の聞きたかったのはディープパープルやツェッペリンなどのハードロックだったが、オペ室へ優しく響いきた曲はポリスの「Every Breath You Take」だ。執刀医はどういう気持ちだったか知らないが、スティングの歌声を聴きながらオペを受けるのも悪くはない。人生でそう経験しないだろう…

 

 準備が整うと胸部へ麻酔が注射され、少しづつメスで痛みを確認しながら切開を進める。局部麻酔なので麻酔が届いていない部分に触れればも鋭いナイフで斬りつけられたようなヒヤッとした痛み?が走る。そして電気メスを使った切開が始まり、髪の毛を焦がしたような何とも言えない匂いが、鼻へ不法侵入してきた。表面近くは麻酔が効いていて痛くはないが、骨に近づくにつれピリからビリッという痛み変化してくきた。

 

 程無くしてワイヤー抜去の少し手前の段階に入ったようだ。滅茶苦茶痛かった!!絶望的な虫歯がうずくような痛みでもなく、歯の神経を抜くかのように矢が突き刺さるほどの鋭い痛みでもない。執刀医は痛くてビクビクと身体を動かす私をどう思っていたのだろう?そして一本目のワイヤーの抜去が始まった。

ワイヤーも簡単にとれるわけではなく、何度も引っ張りしてて抜くらしい。ワイヤーは胸骨の裏側、心臓に近い部分を通るので、ワイヤーの端で組織を傷つけてたりすれば大量出血に繋がる可能性もある。稀なことではあるが、その場合は救命できないとも言われていた。そのような事もあり、異常がなければ大きなリスクを背負ってまでワイヤーを抜去する必要はないらしい。

 

 しかし、このワイヤーを引っ張る作業は凄く痛かった。まる小さなエイリアンが胸を食い荒らして飛び出してくるかのようで、骨からゴリゴリというような音が聞こえた気がした。

 

一本を終え、二本、、、

 

やはり変な声が出てしまうし、身体もカツオの如くブルブルするバイブレーションする。執刀する側も捌きにくいのだろう、途中から薬で半分寝かせられてしまった。徐々に頭以外の感覚が鈍り痛みはとても少なくなったが、声だけは耳から入ってくる。何を喋りながら捌いていたのかは私だけの秘密だ。このブログ記事でも教えない。

 

 オペが終わりストレッチャーで病室へ戻された。胸に疼くような痛みもあるが、薬が残っている事もあり2時間くらい寝ることにした。目が覚めたら床上安静ながらも動くことはできたので、iPhoneで動画をまとめるくらいの元気はあった。最近は入院する度にYoutubeの動画投稿が増えるという流れさえある。

翌日の夕方には歩行の許可も下りて廊下を歩いていた。もちろん夜は小さなバド会だ。今日は小さなドレーンも抜いて、痛みもだいぶ和らいだ。唯一残念なのが四十肩の如く腕が上がらなくなったことだが、まだヤングでナウいから時間が解決するだろう。

 

なお、facebookページでは予告したが、8月22日(水)10:30より多人数ビデオチャット「井戸バド会議」を開きます。私もスマホのパケット量が尽きていなかったら参加します。みんなのオペ話を聞かせて下さい。

患者の幻想?事実?外科医はきっと〇〇が得意説

 ふと医師の休日を想像する事があった。

 

 

外科医は日曜大工が得意なのだろう。

ノコギリにとどまらずドリルやノミを使い熟しガタついた家具をも直すのだろう。

 

 

外科医は料理が得意なのだろう。

日々鍛えているメスを操る手はギロリと睨みつけるカツオの目にも臆せず三枚に下ろし、キッチンもピッカピカなのだろう。

 

 

外科医は電子工作が得意なのだろう。

使い慣れた電気メスをはんだごてに持ち替えれば、ちょっとした追いハンダなんかも器用に熟して家電を直してしまうのだろう。奥さんも大助かりだ。

 

 

外科医はきっと裁縫が得意なのだろう。

パパッと生地を裁断し縫い目も真っ直ぐに仕上げ、こどもの持つ道具の名札付けも一段と綺麗だろう。けっしてアイロンでくっつく名札などのアイテムは使わない。

 

 

これは患者の幻想に過ぎないのか?それともスーパーマンもしくはスーパーガールのように想像通りなのか?

真偽はともかく、どんな天才肌の外科医でも努力家で医療へ対するパッションを持ち合わせているとに間違いはないのだろう。そう感じることができた数日でした。


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